レタスなど高原野菜の産地として知られる長野県の野辺山高原。
その周辺に「ご飯を山盛り」にしたような山があるそうだ。
野辺山から見えない飯盛山
以前から「飯盛山(めしもりやま)」という名前は知っていた。
その名のとおり、日本昔ばなしの山盛りご飯のような山の写真を見たことがある。
山肌はとても綺麗な緑色だ。
野辺山駅から飯盛山の登山口までは近いらしい。
ところが、野辺山や清里のあたりから、写真で見たような「飯盛山」らしき山が見当たらない。
国道141号を車で何度も往復しているのに、このような特徴豊かな山の姿を目にしたことがないのだ。いったいどこに隠れているのだろう?
長野県南牧村役場が制作したカレンダー「2023年7月」には
飯盛山と富士山そしてニッコウキスゲが写った美しい写真が掲載されている。
写真のような山は本当にあるのだろうか?
飯盛山を探しにいく
飯盛山のことが気になり、地図やインターネットを使わずに車でぷらっと探しに行った。
自分のカンだけでは見つからなかった。
今度は飯盛山の頂上にカーナビゲーションをセットし車を走らせた。
平沢という集落を抜けて、どんどん奥に進んでいく。
道はだんだん狭くなり、アスファルト舗装は砂利や土に代わった。
ついに行き止まりになってしまった。
やはり飯盛山らしき山を見つけることができなかった。
普段は、わからないことがあれば、すぐにインターネットを使って調べるのだが。
飯盛山を探すために何故かインターネットに頼りたくないという不思議な気持ち。
隠れている山を、自分の足(車)で探し当てようという冒険心や好奇心のようなものがあった。
探索を開始した時間が遅かったので、飯盛山の姿はもちろん、登山口すら見つけることができず、日没が近づいてきた。
別の日に探そうと諦め、帰ることにした。
帰り道。たまたま通りかかった平沢峠の駐車場の脇に「飯盛山 ⇒」の分岐案内板を見つけた。
「ここから登れるのか」
自力で登山口を発見できたのでうれしくなった。登山口には広い無料駐車場もある。
「しかし、飯盛山は全く見えないぞ。いったい何処にいるのだ」
簡単に姿を見せない飯盛山に畏敬の念をを抱きつつ、日を改めて飯盛山を探し求めることにした。
そして1年後。
過去に林間学校で飯盛山に登ったことがある小学校高学年の生徒が「私が飯盛山に連れて行ってあげる」と申し出た。飯盛山を見せたいようだ。人に紹介したいほど魅力的な山なのだろうか。
現役小学生に案内をお願いし、平沢峠の登山口から山の頂上を目指すことにした。
平沢峠駐車場
JR鉄道最高地点の付近の駐車場に車を止めて登山前のトイレ休憩。
カーナビの目的地を「平沢峠駐車場」にセットして登山口に向かった。
農道のような道を抜けて、旧野辺山スキー場の入口あたりで「八ヶ岳スケッチライン」という道に合流した。スケッチラインを南に進み、坂を上りきると平沢峠駐車場が見えてきた。
駐車場には、およそ10台の車が駐車されていたが、空きの駐車スペースはたくさんあった。
平沢駐車場に車を止めて、西の方向を見ると八ヶ岳連峰が目に飛び込んでくる。
とても景色が良いところだ。真夏の風も気持ちいい。
キャンプチェアに座って、ゆっくりと八ヶ岳を眺めている人たちがいる。
駐車場の北側には、獅子岩という小さな岩山がある。
案内人の小学生は、「前に来たときは、ここでお弁当を食べた」とうれしそうに話す。
駐車場の南側には、トイレや飲料品の自動販売機があるので安心だ。
日本の分水嶺
平沢峠の駐車場には「日本の分水嶺」の看板が設置されていた。
雨水が日本海に流れこむか、太平洋に流れ込むかの境界だ。
今回の目的地、飯盛山への登山道入口は、駐車場東側の道路の向こうにある。
ボーイスカウトらしき少年たちが指導者と一緒に登山口に降りてきたところだ。
ひと山登り終え、緊張感から解放された様子で、みんな駐車場でリラックスしている。
一方、私たちは小学生の案内でこれから飯盛山の頂上に向かうのだ。
飯盛山への登山道入口(平沢峠のしし岩登山口)
(13時47分)ここは「しし岩登山口」。登山道の入口に案内板があった。
「JR野辺山駅」「平沢地区・清里」「飯盛山」への矢印が書かれている。
もちろん「飯盛山」を目指す。
(13時47分)飯盛山ハイキングMAPが設置されていた。
部分的に木や塗装が痛んでいて少し見づらい。
この場所は冬にマイナス10℃以下になることもある。看板の維持も大変だ。
地図のほかに、次のようなお知らせが書かれていた。
飯盛山はお茶碗にごはんを盛ったような形の山です。全体的にゆるやかなコースなので、気軽に登れる山として人気があります。道中にはたくさんの高原の花が四季折々の山の表情を彩っています。標高1,643mの山頂からは野辺山高原が一望でき、八ヶ岳や南アルプス、富士山などが見渡せる360°の眺望が楽しめます。
飯森山ハイキングMAP 長野県南牧村 野辺山高原
お願い
貴重な高原の植物が自生していますので登山道以外へは入らないようにしましょう。動物、植物を大切にしましょう。ゴミはすべてお持ち帰りください。飯盛山一帯は牛の放牧場になっているため有刺鉄線が設置されています。ご注意ください。
飯森山ハイキングMAP 長野県南牧村 野辺山高原
飯盛山を目指して山登りスタート
登山用スタイルではなく、普段着のシャツ、ズボンに帽子を着用し、運動靴で登ることにした。
(13時47分)飯盛山を求めて出発。小学生は「ここをずっと登っていくんだよ」と話す。
階段が作られている。土留めになりそうだ。登山道は草がなく歩きやすそうな地面。
(13時51分)少し登っただけで景色が広がった。八ヶ岳には少し雲がかかっている。
この後、念のために長袖を取りに車に戻ったので5分程度の時間をロスした。
(13時57分)意外と葉が生い茂っている。
(13時57分)ごつごつした石がたくさん転がっている。足元に注意して進む。
日陰に入ると、頭の周りにはブンブンと何かが飛んでいる。
登山中も下山中も、ブーンと虫が飛ぶ音が鳴り響く。刺されることはなかった。
(13時59分)日陰はやや涼しいが、山を登ると汗が出てくる。
飯盛山登山道を裸足で登っていく男
(14時01分)すれ違う人もなく、静かな登山道を進む。
すると後ろから高齢男性が一人早足で登ってくる。
くすんだ白色の疲れたシャツにへろへろのハーフパンツ姿だ。靴を履いていないようだ。
男は尖った小石が敷かれた地面を裸足でガツガツと踏み込みながら、グングンと登ってきた。
気遣いのない服装。そして裸足。私たちを追うように接近してくる姿。
山の奇人かもしれない。危機感を覚えた。
場合によっては小学生と自分の身を守らなければならない。
すぐさま男の両手に視線を向けたが、危険な物は持っていないようだ。
隠者の登りっぷりを見た案内人の小学生は「ねえ?裸足だよ」と小声で言った。
男に聞こえたか?と冷っとした。
この男と関わらないほうが良いと直感し、挨拶せずに道を空けた。避けるしかなかった。
男は、ちらっとこちらを見るも挨拶せずに通り過ぎた。何も起こらなかったことにほっとした。
もう一度目を凝らして後ろ姿の男の足を確認したが、間違いなく裸足だった。
小学生は「はだしのゲン」とつぶやいた。
(14時02分)北側が開けた。八ヶ岳高原が見える。
(14時05分)登山道の脇にスペースができている。ここで一休みして水分補給。
裸足男の話題になった。このとき「すごいね。足の裏どうなっているのだろう」と感心する気持ちに変わっていたが、この先、あの男とはすれ違いたくないと思った。
※後で調べてみると、裸足登山というのがあるらしい。普通に鍛錬していた人なのだろう。
(14時08分)「宮司の滝分岐」に案内板が設置されている。
目的地の「飯盛山」、登山口の「しし岩」、下の方向には「宮司の滝」。
気になる滝であるが、高いところまで登ってきたのに、ここから一旦下って、また登って戻ってくる気力はない。
親子登山 子を背負うママさんハイカー
(14時08分)野辺山高原の方向が開けてきた。ここで初めて登山客とすれ違った。
子連れの母である。母は子を背負っている。3歳くらいの女の子だ。
裸足男の次は、寝た子を背負う女だ。この登山道は不思議な人に出会う。
登山用のウエアが似合うスタイリッシュな母と娘だ。
母の話では
娘は、飯盛山の頂上まで、頑張って登ったそうだが、とうとう疲れてしまったらしい。
山登りを経験させてあげたかったそうだ。娘はきっと絶景を目にしたはず。
母は子を背負ったまま、疲れた表情を見せることなく、しっかりとした足取りで下って行った。
(14時09分)野辺山高原が見える。浅間山は見えなそうだ。
(14時14分)再び木々に囲まれた道を進む。
(14時20分、約30分経過)また開けてきた。
この辺りは屈指のアイスバーンとして知られた旧野辺山スキー場のゲレンデがあった辺りだろうか。
(14時25分)北側が開けた平坦な道である。
(14時31分)野辺山高原が見える。
上から見るとビニールハウスやマルチシートのような白色が多いのがわかる。過去に高原野菜の栽培方法として話題になったピンク色のビニールハウスやマルチは見当たらない。
国立天文台 野辺山宇宙電波観測所のアンテナが見える。この時は真上を向いている。
(14時31分)「平沢山分岐」に案内板が設置されている。
目的地の「飯盛山」、出発地の「しし岩」、そして「平沢山」である。
「平沢山」のことはよくわからない。「飯盛山」の矢印の方向に進む。
(14時32分)今度は南側が開けてきた。雰囲気が一変した。
残念ながら富士山は見えない。涼しい風が抜けて気持ちいいぞ。
ついに飯盛山が現れた
(14時32分)「ほら、あれが飯盛山だよ」
遠くに「飯盛山」らしき山が顔を出している。
何年もの間、気にかけてきた山だ。
遂に巡り合えたと感動した。まだ遠い。全容は伺えない。
(14時33分)南側の山々を眺めながら進む。
(14時34分)この先、右足元はけっこうな急傾斜。飯盛山が少しだけ見える。
(14時36分)松が生えている。飯盛山が視界から消えた。
(14時39分)「平沢山分岐」に案内板が設置されている。左方向に平沢山があるらしい。
(14時42分)再び、飯盛山が見えてきた。木があまり生えていない。
(14時43分)飯盛山を眺めながら進む。きれいな山だ。
(14時45分)案内板がある。なんと「大盛山」の表示が!
「飯盛山」と「大盛山」どっちが盛りがすごいのか。ここは「大盛山分岐」。
(14時47分)飯盛山を目指して進む。
(14時48分)ここにも「大盛山」への案内板が設置されている。
この先は鉄線で囲まれている。鉄線の入り口から中に入る。
(14時49分、約1時間経過)広場のようになっている。それにしても人がいない。
学生生徒の夏休み期間中にも関わらず「飯盛山」には、大人も子供も一人もいない。
完全なプライベートマウンテンだ。
あの裸足男はどこにいったのか。
(14時50分)広場からは八ヶ岳や南アルプスが見える
(14時53分)もう少しで頂上だ。多少急傾斜であるが、険しい道ではない。
(14時55分)残り数段で頂上。
(14時55分)飯盛山1,643メートルの頂上に到着した。周囲をぐるっと眺めることができる。
飯盛山の登山道入口から頂上まではおよそ1時間(長袖シャツを取りに行った時間を除く)であった。
野辺山方面の景色
八ヶ岳方面の景色。
下の牧草地には牛たちがいる。
飯盛山の頂上までの案内を終えた小学生は、牛たちに関心を示し、しばらく眺めていた。
飯盛山の頂上から野辺山駅周辺は全く見えない。国道141号線沿線も見えない。
ということは、やっぱり下界から飯盛山を見つけるのは難しいのだろう。
「飯盛と大盛」の標高について、後から調べたところ、飯盛山は1,643メートル、大盛山は1,650メートルとのことである。
高さでは大盛山に負けているが、私は飯盛山のほうが好きだ。
次回は大盛山や平沢山に登ってみよう。そして滝にも行ってみよう。
平沢峠駐車場に戻る フォッサマグナ発祥の地
(15時55分)平沢峠駐車場に戻ると上のような解説を見つけた。
平沢峠駐車場石碑「フォッサマグナ発祥の地~平沢からの眺め~」より
ドイツ人のエドムント・ナウマン博士が1875年に平沢を訪れ、南アルプスを眺めた景色をきっかけに日本列島にフォッサマグナ(大きな溝)があると考えた。
フォッサマグナについて改めて知りたい場合は、YouTube動画を参考にすると良さそうだ。
飯盛山の登山の時間、混み具合、高山植物などの情報
登り約60分、下り約55分だった。(私たち小学校高学年の生徒と大人のグループ)
すれ違った登山者2人、追い抜いて行った登山者1人、そして私たち。
南牧村観光協会によると飯盛山では次のような高山植物がみられるそうだ。
信州野辺山高原 飯盛山トレッキング 南牧村観光協会
サクラソウ 5月中旬~6月中旬 レンゲツツジ 5月下旬~6月上旬 ドウダンツツジ 6月 イブキトラノオ 6月中旬~7月下旬 ニッコウキスゲ 6月下旬~8月上旬 ヤマオダマキ 6月下旬~8月上旬 シモツケ 7月~9月中旬 マムシソウ 8月~10月中旬 飯盛山は高山植物の宝庫
今年の夏は暑かったせいか、8月上旬にニッコウキスゲはほとんど見られなかった。